第一話 縁側から見る桜 (全三話)
何もしない記憶
第一話 縁側からみる桜 (全三話)
中学生の夏休み、
僕は縁側で
ただ外の桜を見ていた。
桃色の花はもちろんなく、
日差しだけがただ強かった。
緑色の葉っぱだけが
ゆらゆらとゆれていた。
朝ごはんを食べて
宿題をするわけでもなく
友だちの家に遊びに行くわけでもない。
ただ、ぼーと外を見ていた。
両親は仕事、
兄弟も外出。
この家には僕ひとりだけだった。
何もしない、
テレビ、ラジオにも興味がない。
本すら読もうとも思わない。
そんな自分が心底嫌だった。
なぜだろう。
何もしなかったことを
こんなに鮮明に覚えている。
記憶って不思議なものだ。
<つづく>